岩波の志 2021 坂本政謙 <第13回>
岩波書店ホームページ「会社案内 岩波の志」
京都新聞朝刊「時のひと」(2021.7.31)
毎日新聞朝刊「文化の森」(2021.8.8)
この夏、岩波書店の新たな社長に坂本政謙(56)さんが就任されたことを、京都新聞と毎日新聞の記事で知りました。坂本さんは、2017年に直木賞を受賞した小説「月の満ち欠け」の編集を担当された方だそうです。
6月1日の社長就任に際し、ホームページに「岩波の志」と題した文章を掲げられています。
「岩波の志」の中で坂本さんは、岩波書店の役割は、「教養(=叡知)と社会をつなぐこと」だと述べています。
現在を生きる私たちが眼前にしている社会は、「ITが駆動するメディアとコミュニケーションの変容とが連動した「ポスト・トゥルース」の世界」であり、これまで「教養」と呼ばれてきたものは軽視せざるを得ない―それが私たちの現状ではないかと分析されています。
このような現状に対し、「私たちに残された遺産、そしてそれがかたちづくられた歴史的な経緯についての正しい認識は、なによりも重要」であるとし、そのような認識がなければ、私たちを取り巻く現状を正確に捉え、未来を展望することはできないと坂本さんは指摘されています。
私たちが直面している現在の課題を歴史的な文脈で捉え、地球規模の広がりのなかで考察することが喫緊の課題であり、岩波書店はこのような社会的課題に対して、確かな学術的背景を基礎として、読者の判断の規準となるべき、歴史に根ざした厚みのある叡知=教養を、書籍としてだけでなく様々なかたちで提供していきたい、と坂本さんは「岩波の志」の中で表明されていました。
岩波新書や文庫など、身近に本を提供してくれているこのような出版社があることを私は幸せに感じます。
岩波だけではなく、この他にもたくさんの出版社が私たちの身近にはあり、いつも書店に行けば新刊の書籍をはじめたくさんの本をながめることができる当たり前の日常に感謝の気持ちもこみ上げてきます。
私は、時間があればできるだけ書店に行って本を眺めるようにしています。旅行先など、近くに書店があれば必ず立ち寄ります。(笑)
ネットで求めている本を手軽に購入できる時代ですが、書店を歩き回ることによって、思わぬ本との出会いがあります。そして時間さえあれば喫茶店に行って本を読むようにしています。挽きたてのコーヒーを飲みながら、好奇心を掻き立てられる瞬間は、至福のひととき!
毎日新聞の記事の中で坂本さんは、「いい本は心を動かす」と語られていました。
小学4、5年生の時の担任だった男性の先生が、「きょうは本を読んで聞かせます」と宣言し、『千本松原』(岸武夫作、梶山俊夫画・あかね書房)という児童文学を朗読してくれたそうです。
「先生は読んでいる途中で涙を流し始め、声をつまらせていた。(中略)大人がこれだけ泣くんだ、人の心を揺り動かす物語の力ってすごいなと、子供心に思いました。本が人から人へとつながっていくということも、教えてくれた出来事でした。」
「いい本は心を動かす」ということを、あらゆる手段で伝える努力をしていく。そして一冊一冊、丁寧に本を作っていく姿勢を大切にしていきたいと坂本さんは語っています。
これから本を手に取った際、本の出版に携わっている方々の想いも感じたいと思いました。
*「ポスト・トゥルース」とは
世論形成において、客観的な事実より、虚偽であっても個人の感情に訴えるものの方が強い影響力を持つ状況。事実を軽視する社会。
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