「炎上」「言葉狩り」が社会を蝕む 三浦瑠麗 <第18回>
三浦瑠麗「「炎上」「言葉狩り」が社会を蝕む」『文藝春秋』(第99巻 第10号)2021年10月号、文藝春秋
~米国発 キャンセルカルチャーを“輸入”した日本の将来~
気に入らない人間は…
キャンセルカルチャーとは、著名人の言動に強い反発をおぼえた人が、ボイコットを呼びかけて、その人を公的な職や立場、マーケットから追放しようとする事象を指す言葉だそうです。
謝罪だけでは済まされない
「キャンセルカルチャーは誰でも例外なく、注目を浴びた瞬間に降りかかってくる可能性がある。」
アメリカはキャンセルカルチャーの荒野と化しているが、反対する言論もある。事なかれ主義の日本では、議論すら盛り上がらない。「触らぬ神に祟りなし」のごとく、一度味噌をつけた人は起用しないという“締め出し”の連鎖が起こる。三浦さんは、これこそ「日本風キャンセルカルチャー」を象徴していると述べています。
「棍棒をふるいたい」欲求
「人間は息をするように自分を正当化し、優位に立とうとする生きものです。キャンセルカルチャーは、その正当化欲と権力欲を満たすための歪んだ手段となりやすい。」
言葉が「切り取られる」
「私刑(リンチ)の動機は、ほぼ権力欲とルサンチマンによる報復勘定で説明ができる。」
※ルサンチマン ニーチェのキリスト教批判における中心概念で、「恨み」や「妬み」を意味する。
「Amazon解約運動」の内幕
三浦瑠麗氏もキャンセルカルチャーを身をもって経験した一人だ。「実際の経験者だからわかることですが、多くの場合、火元となる情報の作られ方は意図的なのです。」
「モラルタフネス」に欠けた日本
三浦さんはキャンセルカルチャーが日本に与える影響について、「非常にいびつなものになるでしょう。」と強い危機感を示しています。
「アメリカでは、美徳とされる性質の一つに「モラルタフネス」がある。「自身の倫理観を伴う強さがあるかどうか」ということですが、つまり物事に対してきちんと善悪の判断をくだせるかどうか、周囲に流されず、責任を持って判断をくだせるかどうかということを指します。」
「私は、キャンセルカルチャーが過熱することに強い危機感を覚えます。こうした「日本風キャンセルカルチャー」によって生み出されるのは、誰もがあるべき“正解”しか話せない、その正解を支える倫理すら存在しない、つまらなくて危険な社会です。」
私は、この三浦さんの文章を読んで、「同調圧力」、「群衆心理」、「パワハラ・セクハラ」、「学校でのいじめ」などのワードが思い浮びました。
※同調圧力:集団において、少数意見を持つ人に対して、周囲の多くの人と同じように考え行動するよう、暗黙のうちに強制すること。
※群衆心理:群集状況のもとで醸成される、群集に特有な集合心理のこと。
コロナ禍がいまだ終息せず不安な社会を生きる僕たちは、「キャンセルカルチャー」が身近なものであることを実感しています。SNSが発達しその利便性を共有している今、三浦さんの言う 「モラルタフネス」をどう養い、自身の倫理観を伴う強さを持てばよいのか。
個々人の倫理が今、問われていると感じました。
■本の中で気になった言葉
キャンセルカルチャー、「日本風キャンセルカルチャー」、モラルタフネス、ルサンチマン
■次に読みたい本
太田 肇『同調圧力の正体』PHP新書、PHP研究所、2021年
武田 砂鉄 『ル・ボン『群衆心理』 』NHK100分de名著、NHK出版、2021年