『ウクライナ戦争』小泉 悠〈第30回〉
小泉 悠『ウクライナ戦争』(ちくま新書1697)、2022年12月10日、筑摩書房
2023年2月23日 開戦から1年が経った。開戦当時は、「長期戦にはならないのでは」との見立てが有識者の間でも語られていたが、現実はそうとはならず、長期化の様相を呈してきている。この戦争は、どのように終わらせることができるのか。そのことを考えるためにこの本を選んだ。この戦争がなぜ始まったのか。そして戦場では何が起きているのか。ウクライナ戦争について、正しく学ぶ必要性を感じている。本書は、ウクライナ戦争の実像を時系列に解説する構成となっている。
■本を読むことになったきっかけ
先に小泉氏の著書を読んで、ロシアの軍事戦略について理解を深めることができたので、今回出版された著書についても読んで、ウクライナ戦争の現実について学んでおきたいと思った。
『現在ロシアの軍事戦略』
冷戦後のロシアにおける軍事理論をあつかっている。
ロシアが大規模な戦争をどのように遂行しようとしているのかが中心テーマ。
→ 可能性の問題であったものが、今次の戦争では現実となっている。
■本書の内容
本書における問い
・これだけの大戦争が何故起きてしまったのか。
・それは本質的にどんな戦争であるのか。
・戦場では何が起きており、日本を含めた今後の世界にどのような影響を及ぼすのか。
第1章 2021年春の軍事的危機 2021年1月~5月
第2章 開戦前夜 2021年9月~2022年2月21日
今回の戦争に先立つ1年間に焦点を当て、戦争への道がどのように展開していったのかを明らかにする。
第3章 「特別軍事作戦」 2022年2月24日~7月
第4章 転機を迎える第二次ロシア・ウクライナ戦争 2022年8月~
2022年2月24日の会戦から本書脱稿時点(2022年9月末)に至るまでの7カ月間を対象として、戦況がどのように推移していったのか、そこで鍵を握った要素は何であったのかを概観している。
第5章 この戦争をどう理解するか
ロシアの戦争遂行は理論的に見てどのように理解できるのか。
この戦争の原因について。
■本の中で気になった言葉
第一次ロシア・ウクライナ戦争 2014年に発生したロシアによるクリミア半島の強制「併合」と東部ドンバス地方での紛争
第二次ロシア・ウクライナ戦争 2022年2月24日開戦後の戦争
ルバート・スミス『軍事力の効用』 「もはや戦争は存在しない」
→「結局のところ、大戦争は決して歴史の彼方になど過ぎ去ってはいなかった。」
(総 括)より
・「この戦争は極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」である。」
・「核抑止力は依然として大国の行動を強く縛っている、ということを今回の戦争は明確に示した。」
・「ただ戦闘が停止されればそれで「解決」になるという態度は否定されねばならない。(中略)日本としてはこの戦争を我が事と捉え、大国の侵略が成功したという事例を残さないように努力すべき」
「巨大な戦争という現象は、歴史の教科書の中だけの存在ではなく、我が国がそのような事態に巻き込まれたらどうすべきか、そうならないために何をしておくべきかは今から真剣に検討しておく必要がある。」
(あとがき)より
「本書は読み上げきれない無数の小さな名前たちに捧げられている。」
「彼らの名前は、ナターリヤであり、イホールであり、セイゲルであろう。」
「動員によってまだ扱いも不慣れな銃を持たされ、前線へ投入された兵士たち、家を失ったり家族を殺されたりして途方に暮れる紛争地域の住民、もはや涙を流すことのできない多くの死者―そうした人々をこの戦争は今も生み続けている。」
「悲劇的な現実が存在している。」
■感想
現在のウクライナ戦争がなぜ始まり、今何が行われているのか。本書は、これまでの経緯を理解するうえで非常に役に立った。国際社会が戦争を終わらせるための明確な答えを見いだせないでいる中、同時代を生きている者として、この戦争にどう向き合ったらいいのか、考える示唆をこの本は与えてくれた。この戦争は、グローバル化した世界(地球)の中で現実に起こっていることであり、決して私たちと無関係な出来事ではないことを強く感じさせられた。
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