『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠〈第21回〉
小泉 悠『現代ロシアの軍事戦略』筑摩書房、2021年
この本を読むまで、ロシアについてよく知らなかった。特に軍事のことについては初めて知ることばかりであった。
この本を読んだきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻について、なぜこのような事が今起こっているのかについて学びたいと思ったからである。
ソ連崩壊後もロシアは、旧ソ連諸国を「勢力圏」とみなし自国こそが政治・経済・安全保障などの中心であるという理解が存在してきた。
その主導権を他国に握られることだけは容認せず、「消極的な勢力圏」のようなものを維持しようとしてきたのが冷戦後のロシアであった。
NATOの拡大をロシアが苦々しく思っていた理由は、それが「大国」としてのロシアの地位を損なうものとみなされたことである。
この本を読んで、現代ロシアの実情について理解することができた。また、今ロシアが行っているウクライナ侵攻について考える知見を深めることができた。
権威主義体制の下にあるロシアと、これを受け入れない西側という構図-すなわち「永続戦争」は今後も続いていく公算が非常に高い。
日本は「西側」の一員であって、そうであるがゆえに否応なく「永続戦争」の中にあることも忘れられるべきではないと思った。
■本の要点
はじめに-不確実性の時代におけるロシアの軍事戦略
「世界のありようは大きく変わり、混沌とした「ポスト・ポスト冷戦時代」へ突入しつつあることだけは明らかであろう。」
第1章 ウクライナ危機と「ハイブリッド戦争」
冷戦後のロシアは欧州正面における「戦略縦深」を大幅に失い、兵力の面では劣勢となった。
ウクライナで実際にロシアが用いたのは、国家・非国家を問わずに幅広い主体を巻き込み、現実の戦場に加えてサイバー空間や情報空間でも戦うという方法であった。このような戦い方は西側諸国において「ハイブリッド戦争」と名付けられた。
第2章 現代ロシアの軍事思想-「ハイブリッド戦争」を再検討する
ロシアでは、暴力を伴わない非軍事的手段-特に人々の認識を操作する「情報戦」によって、軍事力を用いずして戦争の目的を達成できるという考え方が台頭してきた。「非軍事的闘争論」
ロシアの「抑止」概念においては、相手の行動を変容させるために小規模なダメージを与えることが重視される。
・「カラー革命」に備えて―ロシア国内を睨む軍事力
大統領直轄治安組織、国家親鋭軍(VNG)を設立
内乱鎮圧のための重武装部隊である国内軍(VV)と、内務省の警察機構が管轄していた機動隊(OMON)を国家親鋭軍に統合。これは、プーチンが恐れるものの象徴」なので ある。
第3章 ロシアの介入と軍事力の役割
「ウクライナ」、「シリア」、「ナゴルノ」、「カラバフ」での軍事力の活用事例について
非国家主体や非在来型手段を古典的な軍事力と結合させた「限定行動戦略」によってウクライナやシリアへの軍事介入を行ってきた。
軍事力が軍事的闘争以外局面で発揮した効用、すなわち、ある「状況」を作り出す目的でも使用されていた。
第4章 ロシアが備える未来の戦争
2010年代後半以降のロシア軍では、西側の支援を受けた武装勢力との戦いが核使用を含めた大規模戦争へとエスカレートするという想定が軍事演習に取り入れられるケースが増加してきた。
第5章 「弱い」ロシアの大規模戦争戦略
もしもロシアが大規模戦争に巻き込まれた場合、ロシア軍はどのように戦うのか。
・特に劣勢化で戦うための「限定行動戦略」
・敵の宇宙優勢を覆す「対衛星攻撃能力」
・戦闘の停止を敵に強要、第三国の参戦を阻止するための「エスカレーション抑止」戦略
戦略抑止下で戦術核兵器を使用して戦う「地域的核抑止」戦略や対衛星攻撃(ASAT)
〇プーチン・システムの今後
2020年7月、ロシア憲法改正という大きな出来事があった。この改正では、プーチン大統領が2024年の任期切れ後にも改めて大統領選に出馬して、最長で2036年までその座に留まることが可能となる一方、不逮捕特権を持つ「国父」として院政を敷く道も開かれた。」プーチン・システムを長期にわたって存続させようとしていることは明らかであると思われる。
■本の中で気になった言葉
「永続戦争」
■次に読みたい本
アレクサンドル・カザコフ『ウラジーミル・プーチンの大戦略』東京堂出版、2021年