『くらべてわかる!キリスト教 イスラーム入門』 齋藤孝 <第9回>

著書名 『くらべてわかる!キリスト教 イスラーム入門』
著者名 齋藤孝
出版年 2021年
出版社 ビジネス社

 コロナ禍のような“災厄”に対して人類は「宗教」と「科学」の力で戦ってきたと齋藤氏は冒頭で言っています。そして、このふたつの方法をうまく描いている作品として、カミュの『ペスト』を紹介されています。『ペスト』では、神を信じる「心理」と、科学的な思考をする「意志」の双方が巧みに描かれているからだそうです。

 世界の人口約77億人のおよそ半分を占めるキリスト教とイスラーム。世界史の大きなふたつの流れとしてのキリスト教とイスラームを比較して学ぶことが本書のねらいとなっています。

〇本書の構成
第1章 キリスト教はなぜ世界宗教になれたのか
第2章 宗教改革と現代日本はつながっている
第3章 イスラームの価値を守る人々
第4章 イスラームはどこへ向かうのか
終章 人間はなぜ宗教を求めるのか

 キリスト教・イスラーム・ユダヤ教は、いずれもセム語族によって生まれた宗教。(「セム的一神教」)
 ・その神は、ヤーヴェであり、ゴッドであり、アッラーで、意味は全て「神」であり同じ神を指している。
 ・エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラームの共通の聖地。
 ・エルサレムの旧市街には、ユダヤ教の「嘆きの壁」、キリスト教の「聖墳墓教会」、イスラームの「岩のドーム」がある。

 齋藤氏は第1章の中で、キリスト教が世界宗教になれた理由として、以下の事柄を指摘されています。
 「イエスがヤーヴェを、ユダヤ教を解放したことが非常に大きい。」
 「教会という“場”が組織として成功したこと。」
 そして、イエスの生と死を神格化し、強烈な魅力を持つ宗教へと発展させた。

 僕が初めてイスラームに触れたのは、マレーシアを旅した時です。初めて異文化に触れた驚きを今も鮮明に覚えています。
 マレーシアの国教はイスラームです。多民族国家であるマレーシアでは、人口の約25%を占める中国系は仏教、約7%を占めるインド系はヒンズー教を信仰していることが多いようです。
 イスラームの文化は世界史の中でも非常に重要な役割を果たしてきているのに、自分の中であまりにその比重を軽く済ませていたことに、この本を読んで気づかされました。世界でのムスリムの人口を考えても、しっかりとイスラームに関して教養として押さえておくことが大切だと思っています。(キリスト教の信者はおよそ22億人、イスラームの信者(ムスリム)はおよそ16億人、この著書より抜粋)

 第3章を読んで、イスラームにはキリスト教世界とは無縁の、独自の時間の流れとシステムがあるということが理解できました。

 齋藤氏は第4章の中でイスラームの歴史についても詳しくかつ分かりやすく解説してくれています。そしてこの章の終わりに、「日本はテロを行う過激派に対しては断固とした対応をとるとしても、平和的なイスラム諸国に対しては友好的、対話的に接するというメッセージを積極的に発信していった方がよいし、そうする立場にある」と述べています。

 キリスト教徒とイスラームを比較して学ぶことで、より深くイスラームについて知ることができ、教養としての世界の宗教を知ることができる本です。

■次に読みたい本(著書の中で紹介された本)
・ラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告(染田秀藤約、岩波文庫)
・佐藤唯行『アメリカはなぜイスラエルを偏愛するのか』(新潮文庫)
・『ユダヤ人の歴史』(レイモンド・P・シェインドリン著、入江規夫訳、河出文庫)
・『イスラエルとは何か』(ヤコヴ・M・ラブキン著、菅野賢治訳、平凡社新書)
・『イスラームとは何か その宗教・社会・文化』(小杉泰著、講談社現代新書)
・『イスラーム生誕』(井筒俊彦著、中公文庫)
・『イスラム教入門』(中村廣治郎著、岩波新書)
・『イスラーム基礎講座』(渥美堅持著、東京堂出版)
・『イスラームから見た世界史』(タミム・アンサーリー著、小沢千重子訳、紀伊國屋書店)
・映画『バベットの晩餐会』(原作は同名の小説)

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